本記事の数値・手順はあくまで参考値です。
実際の作業では金型メーカー指定値・社内規定を必ず最優先にしてください。
内容の適用による損害について、当サイトは責任を負いかねます。
成形現場で働く皆さん、今日もお疲れ様です。
1級技能士のゆーじです。
今日は「樹脂温度の決め方」についてお話しします。
樹脂温度は、条件出しの中でもとくに触られやすい条件です。
不良が出るとまず樹脂温度を疑う方も多いと思います。
ただ、樹脂温度を上げれば直る不良もあれば、逆に悪化する不良もあります。
私自身も温度設定を誤り、糸引きに悩まされた経験があります。
今日はその経験も含めて、樹脂温度の決め方を整理してお伝えします。
射出成形の樹脂温度はどうやって決めればいい?
結論から言うと、樹脂温度はメーカー推奨レンジの中間からやや低めを起点に設定し、そこから不良の状況を見ながら調整していきます。
樹脂温度の決め方(基本の流れ)
メーカー推奨レンジを確認
↓
中間〜やや低めで設定
↓
成形して不良を確認
↓
5〜10℃ずつ調整
↓
高温側・低温側の不良を比較しながら最適な温度を決定
詳しい条件出し全体の順番は条件出しの順番の記事でまとめていますので、あわせてご確認ください。
樹脂温度と型温の違い
初心者が混同しやすいのが、樹脂温度と型温です。
この2つは、そもそも温めている対象がまったく違います。
| 樹脂温度 | 型温 | |
|---|---|---|
| 対象 | 樹脂そのものの温度 | 金型の温度 |
| 主な影響 | 流動性 | 冷却・収縮 |
| 関連する不良 | ショートショット・黒点・糸引き | ヒケ・寸法・外観 |
型温の考え方はこちらの記事で詳しく解説しています。
不良が出たときに、樹脂温度と型温のどちらが原因か迷ったら、まず「流動性の問題か」「冷却・収縮の問題か」で切り分けてみてください。
樹脂温度を上げる前に確認すること
現場では、不良が出るとすぐ樹脂温度を上げたくなります。
ですが、樹脂温度を上げる前に確認しておきたいことがあります。
私は樹脂温度を上げる前に、次の順番で確認しています。
材料乾燥
↓
ゲート径
↓
射出速度
↓
背圧
この4つを確認してから、それでも足りない場合に樹脂温度を上げます。
材料が十分に乾燥していない状態で樹脂温度を上げても、加水分解によるシルバーや強度低下が悪化することがあります。
ゲート径が細すぎる場合も、樹脂温度ではなくゲート形状の見直しが先です。
射出速度や背圧が不足しているだけなのに、樹脂温度で無理に解決しようとすると、他の不良を誘発しやすくなります。
樹脂温度プロファイルの考え方(先端・中間・後方)
樹脂温度は、シリンダー全体で同じ温度に設定するわけではありません。
私は、先端をやや低め、中間を最も高く、後方をやや低めに設定することが多いです。
先端(やや低め)
↓
中間(一番高い)
↓
後方(やや低め)
先端温度を少し抑えることで、糸引きやドローリングを起こしにくくできます。
中間で樹脂をしっかり溶融させ、後方は樹脂の早期溶融による噛み込み不良を防ぐイメージです。
樹脂温度を変更する目安
樹脂温度を調整するとき、一度に大きく変えるのはおすすめしません。
私は基本的に、5〜10℃ずつ変更しています。
一度に20℃以上動かすと、複数の不良が同時に発生したり解消したりして、何が効いたのか分からなくなります。
条件出しは「1回に1つだけ変える」が鉄則なので、温度についても小刻みに変更するのが安全です。
樹脂温度が高すぎるとどうなるか
樹脂温度が高すぎると起きる不良の代表例が、糸引きです。
私自身、PC・ABS・PPの成形で樹脂温度を上げすぎて、糸引きが止まらなくなった経験があります。
特に先端温度が高いと、ノズルから樹脂が糸を引くように垂れる「ドローリング」が起きやすくなります。
ドローリングが起きると、垂れた樹脂がシルバーの原因になったり、金型に挟み込んでバリやカジリの原因になることがあります。
この対策として、私は次のような方法を使っています。
- サックバックを調整する
- 先端温度を少し下げる
- 糸引き防止リング(ノズルチップ)を使う
糸引きそのものの詳しい対策はこちらの記事で解説しています。
樹脂温度が高すぎることで起きるシルバーや黒点についても、シルバー対策と黒点対策の記事であわせて確認してください。
樹脂温度が低すぎるとどうなるか
樹脂温度が低すぎる場合は、流動性が低下し、ショートショットやウェルドライン、充填不足が発生しやすくなります。
流動性が落ちることで、ショートショットやウェルドラインの原因になることもあります。
ショートショットの詳しい対策はこちらの記事、ウェルドラインはこちらの記事で解説しています。
高温対策と低温対策のバランスを見る
ここで大切なのは、片方の不良だけを見て温度を決めないことです。
樹脂温度を上げればゲート詰まりは解消しますが、糸引きやシルバーのリスクが上がります。
逆に樹脂温度を下げれば糸引きは収まりますが、ショートショットやウェルドラインのリスクが上がります。
樹脂温度は「片方の不良を消す」条件ではなく、「両方の不良が出ない範囲を探す」条件だと考えてください。
樹脂別の代表温度目安
樹脂ごとの温度目安は、次の通りです。
| 樹脂 | 樹脂温度目安 |
|---|---|
| PP | 180〜240℃ |
| PE | 160〜200℃ |
| PS | 190〜240℃ |
| ABS | 200〜250℃ |
| PC | 280〜320℃ |
| POM | 190〜210℃(上限230℃) |
| PA6 | 240〜280℃ |
あくまで現場での使用感覚をもとにした目安なので、必ずメーカーの技術資料の推奨レンジを優先してください。
POMは特に温度管理がシビアな樹脂です。
融点(約165〜175℃)を超えれば流動しますが、230℃を超えると急激に熱分解が進み、刺激臭のある有毒なホルムアルデヒドガスが発生します。
シリンダー内での滞留時間が長くなりそうなときは、設定温度を低めにしておくのが鉄則です。
ABSは熱安定性・流動性のバランスが良く、比較的扱いやすい樹脂です。
ただし260℃を超えてくると熱分解が始まり、ガス焼けやシルバー、強度低下を招くので、上げすぎには注意してください。
樹脂ごとの乾燥温度・乾燥時間の目安
樹脂温度を決める前提として、材料の乾燥も重要です。
乾燥が不十分だと、樹脂温度を正しく設定してもシルバーや強度低下の原因になります。
| 樹脂 | 乾燥温度 | 乾燥時間 |
|---|---|---|
| PC | 120℃ | 3時間 |
| ABS | 80℃ | 2時間 |
| POM | 80℃ | 2時間 |
| PA6 | 90℃ | 5時間 |
| PE | 基本的に乾燥不要 | ― |
| PS | 基本的に乾燥不要 | ― |
この数値もあくまで目安です。必ずメーカー推奨値を優先してください。
樹脂温度が決まった状態とは、以下の5つを満たしている状態です。
- ショートショットが出ない
- 黒点・シルバーが出ない
- 糸引きが許容範囲に収まっている
- 外観が安定している
- ショットごとの差が小さい
この5つを満たしたら、次の条件(速度・時間など)に進んでください。
樹脂温度チェックリスト
- 樹脂のメーカー推奨レンジを確認したか
- 材料の乾燥温度・乾燥時間を確認したか
- 樹脂温度を上げる前にゲート径・速度・背圧を確認したか
- 先端・中間・後方の温度バランスを意識したか
- 一度に大きく温度を動かしていないか(5〜10℃刻みか)
- 高温側・低温側の両方で発生する不良を確認したか
よくある質問
型温を先に決めてから樹脂温度に進みます。型温が決まっていない状態で樹脂温度を追い込むと、型温を変えた瞬間にすべてやり直しになります。詳しくは条件出しの順番の記事で解説しています。
私は基本的に5〜10℃ずつ変更しています。一度に大きく動かすと、複数の不良が同時に変化して原因の切り分けができなくなります。
原因が樹脂温度ではなく、材料の乾燥不足やゲート径、射出速度・背圧にある可能性があります。樹脂温度を上げる前に、これらを確認してみてください。
POMは230℃を超えると急激に熱分解し、有毒なホルムアルデヒドガスが発生します。シリンダー内での滞留時間が長くなる状況では、設定温度を低めにしておくことが重要です。
まとめ
樹脂温度は、メーカー推奨レンジの中間〜やや低めを起点に、5〜10℃ずつ調整しながら決めていきます。
樹脂温度を上げる前に、材料乾燥・ゲート径・射出速度・背圧を確認する習慣をつけると、余計な不良を誘発せずに済みます。
高温側・低温側、どちらか一方の不良だけを見て判断せず、両方が出ない範囲を探すことが大切です。
樹脂温度は条件出し全体の中でも土台に近い条件なので、ここが安定すると後工程の速度や保圧の調整もぐっと楽になります。
関連記事


コメント