成形現場で働く皆さん、今日もお疲れ様です。
1級技能士のゆーじです。
型が開いた瞬間、ノズルから細い糸が伸びて製品や金型に絡みつく。
そのまま放置すると次のショットで巻き込まれ、外観不良・型傷・最悪の場合はノズル詰まりに発展します。
糸引きは「たいしたことない」と思われがちですが、放置すると現場の生産性を確実に蝕む不良です。
この記事では、14年の現場経験から導き出した「サックバックから始める糸引き対策の優先順位」を解説します。
この記事でわかること
- 糸引きが発生するメカニズム
- 出やすい樹脂・出にくい樹脂の傾向
- サックバックの正しい調整幅と手順
- サックバックで改善しない時の次の一手
- サックバックを上げすぎた時のリスク
- 2枚プレート・3枚プレートそれぞれの対策
射出成形の糸引きとは何か|なぜノズルから糸が出るのか
糸引きとは、型開き時にノズル先端から溶融樹脂が糸状に伸びる現象です。
原因はシンプルです。
ノズル内の溶融樹脂に圧力がかかったままの状態で型が開くと、樹脂がノズル先端から引き伸ばされて糸になります。
正常な状態であれば、計量終了後にサックバック(スクリューを後退させてノズル内の圧力を抜く動作)によって樹脂の圧力が解放されます。
このサックバックが不足していると、ノズル内に残圧が残り、型開きのタイミングで糸を引きます。
糸引きの第一原因はサックバック不足です。
まずここから手をつけるのが現場の鉄則です。
糸引きが出やすい樹脂の傾向|PC・ABS・PPの違い
糸引きは基本的にどの樹脂でも起きますが、粘度が高い樹脂ほど糸を引きやすい傾向があります。
現場の経験では、出やすい順にPC→ABS→PPです。
なぜPCが一番糸を引きやすいのか?
PCは成形温度が高く(280〜320℃程度)、溶融状態での粘度も高いため、ノズル先端で樹脂が切れにくく糸状に伸びやすい特性があります。
ABSはPCより低温で成形できる分、やや糸引きしにくいです。
PPは流動性が高く糸が切れやすいため、3つの中では最も出にくい傾向があります。
ただし「出にくい」であって「出ない」ではありません。
PPでも条件が崩れれば糸を引きます。
樹脂の種類に関わらず、正しい対処の順番を知っておくことが重要です。
樹脂ごとのシルバーの出方の違いについては「射出成形シルバー対策マニュアル」も参考にしてください。
糸引き対策の優先順位|サックバックから始める4ステップ
糸引きが出たときの対処は、この順番で試してください。
いきなり温度を下げたり型開き速度を変えたりするのは正しい初動ではありません。
STEP 1:サックバック量を上げる
まず最初に触るのはサックバックの量(mm)です。
速度ではなく量から先に調整します。
最初は2〜3mm増やして様子を見てください。改善しない場合はさらに1mm刻みで上げていきます。
「とりあえず大きく上げる」は禁物です。
2〜3mmスタート→1mm刻みが、過剰調整を防ぐ安全な手順です。
サックバックを上げることでノズル内の残圧が解放され、型開き時に樹脂が引き伸ばされなくなります。
これだけで改善するケースがほとんどです。
サックバックを上げすぎるとノズル内に空気を噛み、シルバーや気泡が発生します。
必ず1mm刻みで慎重に調整してください。
上げすぎのサインについては後述します。
STEP 2:温度を下げる
サックバックを適切に上げても改善しない場合、次はノズル温度を下げます。
温度が高すぎると樹脂の粘度が下がり、サックバックで圧力を抜いても樹脂がノズル先端から垂れやすくなります。
温度を下げることで樹脂の粘度が上がり、糸が切れやすくなります。
温度を下げすぎると未充填・フローマーク・シルバー(水分系)など別の不良を誘発します。
樹脂メーカー推奨の成形温度範囲内で調整してください。
温度と流動性の関係については「射出成形 フローマーク対策」も参考になります。
STEP 3:型開き速度を上げる(2枚プレートの場合)
STEP 1・2を試しても改善しない場合、型開きの初期速度を上げます。
これは2枚プレートの金型に有効な手段です。
型開き速度が遅すぎると、ノズルと製品・スプルーがゆっくり引き離される間に樹脂が糸状に伸びます。
型開き初期の速度を上げて素早く引き離すことで、樹脂が切れるタイミングを作ります。
型開き速度を上げる場合、製品の飛び出しや金型へのダメージに注意してください。
必要最小限の調整にとどめ、安全とのバランスを意識してください。
STEP 4:糸引き防止リングを検討する
STEP 1〜3を試しても改善しない場合は、糸引き防止リングの装着を検討します。
2枚・3枚プレートどちらの金型でも使用可能です。
糸引き防止リングはノズルのR部分にテープまたはグリスで固定します。
細い釘やヤスリの先を使って位置を合わせ、成形後にランナー先端の十字が防止リングの範囲内に入っていれば装着成功です。
位置決めは経験と勘が頼りになる作業です。
樹脂別の注意点
ABSまでの樹脂であれば比較的安定して使えます。
PCは流路が狭くなるため詰まりやすくなります。
PCで使用する場合はヤスリで穴を少し広げると使えるケースがありますが、自己責任での対応になります。
糸引き防止リングを装着した後は条件を再調整してください。
特に温度は装着前より上げる方向で調整しないと、今度は詰まりやすくなります。
装着して終わりではなく、再調整がセットです。
糸引き防止リングは金型改造不要で装着できますが、装着後の条件再調整まで含めて「対策完了」と考えてください。
サックバックの上げすぎに注意|シルバー・気泡が出たら限界サイン
サックバックは万能ではありません。
上げすぎると別の問題を引き起こします。
サックバックを上げすぎるとノズル内に空気を噛みます。
その結果、成形品にシルバーや気泡が発生します。
糸引きは改善したのにシルバーが出始めたら、サックバックの上げすぎが原因です。
すぐに設定を戻してください。
「糸引きが消えてシルバーが出た」は、サックバックの限界を超えたサインです。
この場合はサックバックを下げてSTEP 2の温度調整に切り替えてください。
シルバーの原因と対処法については「射出成形シルバー対策マニュアル」で詳しく解説しています。
射出成形 糸引き対策チェックリスト|現場確認用
・まずサックバック量を2〜3mm上げて様子を見た
・改善しない場合は1mm刻みでさらに調整した
・シルバー・気泡が出ていないか確認した(上げすぎのサイン)
・サックバックで改善しない場合、温度を下げた
・温度を下げても改善しない場合、型開き初期速度を確認した(2枚プレート)
・上記すべてで改善しない場合、糸引き防止リングを検討した(2枚・3枚プレートどちらでも可)
・リング装着後に温度を上げる方向で条件を再調整した
・使用樹脂の成形温度範囲内で調整しているか確認した
射出成形の糸引き|現場でよくある疑問と答え
Q. サックバックの量と速度、どちらを先に触るべきですか?
量を先に触ってください。
速度はサックバック動作のスピードであり、量が適切でなければ速度を変えても根本解決になりません。
まず量で効果を確認し、それでも不十分な場合に速度を調整するのが正しい順番です。
Q. 糸引きと垂れ(ドルール)の違いは何ですか?
糸引きは型開き時に樹脂が糸状に伸びる現象、垂れ(ドルール)は型開き前・待機中にノズル先端から樹脂がぼたぼたと落ちる現象です。
どちらもノズル内の残圧・温度過多が原因という点では同じですが、発生タイミングが違います。
対処の順番はどちらも同じでサックバック→温度の順です。
Q. 毎朝立ち上げ時だけ糸引きが出るのはなぜですか?
立ち上げ時は樹脂温度・型温が安定していないため、条件が揃うまで一時的に糸引きが出やすくなります。
条件が安定すれば自然に収まるケースが多いです。
ただし安定後も続く場合はSTEP 1からの調整が必要です。
Q. PCで糸引きが出た場合、温度からではなくサックバックから触るべきですか?
はい。
PCは糸引きしやすい樹脂ですが、対処の順番はどの樹脂でも同じです。
まずサックバック量を上げてください。
PCは成形温度が高いため温度を下げる幅が広いように思えますが、下げすぎると充填不足・シルバーなど別の不良を誘発しやすい樹脂でもあります。
サックバックを先に試してから温度に移るのが安全です。
まとめ|糸引きはサックバックから始めて1mm刻みで攻める
ポイントまとめ
- 糸引きの第一原因はサックバック不足
- 最初は2〜3mm上げ、以降は1mm刻みで調整する
- シルバー・気泡が出たらサックバックの上げすぎサイン
- 改善しない場合は温度→型開き速度→糸引き防止リングの順で対処
- 糸引きしやすい樹脂の順はPC→ABS→PP
- 糸引き防止リングは2枚・3枚プレートどちらでも使用可能・金型改造不要
- リング装着後は温度を上げる方向で条件を再調整する
「糸引きくらい大したことない」と放置すると、型傷・ノズル詰まり・外観不良の三重苦に発展します。
サックバックから始めて1mm刻みで攻める。これが現場で最も確実な糸引き対策の基本です。
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