⚠️ 本記事の数値・手順はあくまで参考値です。実際の作業では金型メーカー指定値・社内規定を必ず最優先にしてください。
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成形現場で働く皆さん、今日もお疲れ様です。1級技能士のゆーじです。
こんな経験をしたことはありませんか。
ABS製品のウェルドライン上に気泡が出る。
原因を探っても条件を変えても消えない。
条件をあれこれ変えるほど別の不良が出てくる。
多段速度の設定で迷った時、どこから手をつけていますか?
多段射出のトラブル診断|その不良、段数の刻みすぎが原因かもしれない
まずこの表で、今出ている不良が多段射出の設計に関係しているか確認してください。
| 症状 | 疑うべき原因 |
|---|---|
| ✅ ゲート直後にジェッティングが出る | 初速が速すぎる |
| ✅ ウェルドライン上に気泡が残る | 充填末端の速度が速すぎる→ブレーキ充填を検討 |
| ✅ ブレーキ充填したらフローマークが出た | 型温・樹脂温で流動性を補う必要がある |
| ✅ 条件を変えるたびに別の不良が出る | 段数が多すぎて制御不能になっている可能性 |
| ✅ シルバーがゲート周辺に出る | 初速のせん断発熱が原因の可能性 |
当てはまる症状があれば、この記事の対応箇所を確認してください。
1. 多段射出とは何か|一速一圧が理想なのになぜ多段が必要なのか
射出成形における充填の理想は一速一圧——一定の速度・一定の圧力で樹脂を流し切ることです。
樹脂をストレスなく均一に充填できれば、圧力のムラが生まれず、ウェルド・ヒケ・シルバーといった不良も起きにくくなります。
しかし現実の金型には、一速一圧では対応しきれない要素が必ず存在します。
- ゲート直後の急激な流路変化
- ピン・コマによる流れの分岐と合流
- 製品内の肉厚変化による流速の乱れ
- 充填末端でのガス逃げの問題
これらに対応するために多段射出を使います。ただし重要なのは、多段射出はあくまで「一速一圧に近づけるための補正手段」だという位置づけです。段数を増やすことが目的ではありません。
一速一圧とヒケの関係については→射出成形 ヒケの原因と対策
2. ブレーキ充填の基本|なぜ末端で減速するのか
ブレーキ充填とは、充填の末端で意図的に射出速度を落とす技法です。
充填末端は樹脂の逃げ場が最も少ない場所です。ここに樹脂が高速で到達すると、ガスが逃げきれずにウェルドラインや気泡として残ります。
速度を落とすことでガスが排出される時間を確保し、合流部での樹脂の馴染みを良くします。
実例ケーススタディ:ウェルドライン上の気泡
ABS製品のウェルドライン上に発生した気泡が消えない事例がありました。初動でゲート条件・乾燥状態・型温を確認しても改善しない。そこでウェルドが発生している充填末端の速度だけを極端に落としました。
結果、気泡は消えました。しかし今度はフローマークが強く出た。速度を落としすぎたことで樹脂の流動前線が乱れたためです。そこで型温と樹脂温を上げて流動性を補い、フローマークを解消しました。
ブレーキ充填でフローマークが出た場合は、速度を戻すのではなく型温・樹脂温で流動性を補う方向で対応します。速度を戻すと気泡が再発します。
フローマークの詳しいメカニズムと対策→ 射出成形 フローマーク対策
3. 初速を速くしてはいけない理由|ジェッティングとシルバーの罠
多段射出の設計でよくある誤解が「初速から速くして充填を安定させる」という発想です。これは逆効果です。
ジェッティングの発生
ゲート直後に高速で樹脂を流すと、樹脂がゲート口から蛇行しながら飛び出すジェッティングが発生します。本来ゲート口から扇状に広がるべき樹脂が、糸を引くように金型内を走り、その跡が表面に模様として残ります。
シルバーへの直結
初速が速すぎると、ゲート通過時のせん断発熱が過大になります。樹脂が局所的に過熱されて分解ガスが発生し、これがシルバーとして製品表面に現れます。特にABSは分解ガスが出やすく、初速の影響を受けやすい樹脂です。
初速を速くするのは厳禁です。ジェッティングとシルバーはどちらも初速の過大が原因です。条件を急ぐあまり初速を上げるのは、最も避けるべき操作です。
シルバーの原因と初速の関係→ 射出成形 シルバー対策
4. 多段射出プロファイルの設計手順|3〜4段で組む理由
基本プロファイルの形
多段射出の基本形は「初速控えめ→中盤加速→末端ブレーキ」の3段構成です。
| 段 | 位置 | 速度 | 目的 |
|---|---|---|---|
| 1段目 | ゲート通過直後 | 低速 | ジェッティング・シルバー防止 |
| 2段目 | 中盤〜充填主体 | 高速 | 流動性確保・充填安定 |
| 3段目 | 充填末端 | 低速 | ガス逃げ確保・ウェルド対策 |
製品形状によってピン・コマ周辺など「変速が必要な箇所」が増える場合に4段目を追加します。
なぜ3〜4段が限界なのか
段数を増やせば細かい制御ができると思いがちですが、現実は逆です。速度の変化点が増えるほど、各段の切換タイミングのズレが積み重なります。成形機の応答速度には物理的な限界があり、短い区間に複数の速度変化を詰め込むと機械が指示通りに動ききれません。
結果として意図しない速度変化が生まれ、新たな不良の原因になります。
段数は3〜4段を上限の目安にしてください。それ以上細かく刻みたくなったときは、「本当に速度で解決する問題か」を疑うことが先決です。型温・樹脂温・保圧で解決できる問題を速度で解こうとしている可能性があります。
設計の手順
ステップ1:V-P切換位置を決める
充填完了の手前で確実に切り換えられる位置を先に固定します。ここがズレると保圧が正確にかかりません。
ステップ2:末端ブレーキの位置と速度を決める
ウェルド・気泡が出ている場所に対応させます。「極端に遅く」から始めて、フローマークと相談しながら戻していく。
ステップ3:初速を決める
ジェッティングが出ない最低限の速度に設定します。
ステップ4:中盤を埋める
1段目と末端ブレーキの間を最小の段数で埋めます。ここを細かく刻まないことが重要です。
例外パターン:保圧で押し込む設計
基本形に当てはまらないケースも存在します。充填末端までブレーキで対応しきれない場合、あえて充填速度を落として保圧で樹脂を押し込むという設計があります。薄肉製品や流動末端が複雑な形状のとき、速度よりも保圧の到達性で勝負する考え方です。
5. プロファイル設計チェックリスト【保存版】
立ち上げ時
- 初速は控えめに設定したか|ジェッティング・シルバーが出ていないか
- 段数は4段以内に収めたか|細かく刻みすぎていないか
- V-P切換位置を先に固定したか|切換位置がズレると保圧が効かない
- 末端ブレーキの位置が不良発生箇所と対応しているか
不良が出たとき
- フローマークが出た場合、型温・樹脂温で補う手順を踏んだか
- 速度変化点が金型構造(ピン・コマ・肉厚変化)と対応しているか
- 保圧で押し込む設計が必要な形状でないか確認したか
FAQ|よくある3つの質問
Q. 多段射出は何段まで組んでいいですか?
現場の目安は3〜4段です。5段以上になると成形機の応答速度の限界から、意図した速度変化が実現できなくなるケースがあります。段数を増やす前に「型温・樹脂温・保圧で解決できないか」を先に確認してください。
Q. ブレーキ充填するとフローマークが出やすいのはなぜですか?
速度を落とすと樹脂の流動前線が乱れやすくなるためです。フローマークが出た場合は速度を戻すのではなく、型温・樹脂温を上げて流動性を補う方向で対応します。速度を戻すとウェルド・気泡が再発します。
Q. 初速はどのくらいに設定すればいいですか?
製品・樹脂・ゲート形状によって異なるため一概には言えませんが、ジェッティングが出ない最低限の速度を起点にします。最初は低めに設定して、充填状態を見ながら少しずつ上げていく方向で探るのが安全です。
段数を増やすほど制御が精緻になると思いがちですが、現場では逆です。
削れる段数を削り、シンプルなプロファイルで安定させる——その判断ができることが、本物の成形技術者の条件です。

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