成形現場で働く皆さん、フローマークが出るたびに「とりあえず速度や温度を上げてみよう」と、根拠のない条件変更を繰り返していませんか?
私も若い頃、同じ失敗を繰り返して痛い目を見てきました。
この記事は、そんな「右往左往する時間」をゼロにするために書きました。
この記事では、フローマークの原因・対策・改善方法を1級技能士の視点で解説します。 樹脂別の傾向、実例ケーススタディ、ホットランナー対応まで、これ1本で完結します。
まず確認|フローマーク最短診断表
今すぐ確認してください
| 症状 | 疑うべき原因 |
|---|---|
| ✅ ゲート中心に同心円状の縞がある | 速度不足・金型温度低下の可能性大 |
| ✅ 材料ロット変更後に突然発生した | MFR(樹脂の流れやすさの指標)の差を確認 |
| ✅ 冬場・朝一番だけ出る | 金型温度の低下を疑う |
| ✅ 特定の1ゲートだけに出る | ゲート径の偏り・冷却回路の問題 |
| ✅ 速度を上げたらシルバーが出た | 全段高速化になっている(後述) |
まず動く順番はこれだけ
① 金型温度の実測値を確認する(設定値ではなく)
② ゲート通過区間の速度を調整する
③ 材料ロットの変化をチェックする
この3つが終わるまで、条件変更は待ちましょう。
1. フローマークとは何か|ゲート周辺に出る縞の正体
成形品のゲート周辺に出る、年輪状・波状の縞模様のことです。
よく混同される不良と、一言で区別しておきましょう。
| 不良名 | 見た目 | 一言で言うと |
|---|---|---|
| フローマーク | ゲート周辺の波状の縞 | 樹脂が冷えながら進んだ「足跡」 |
| シルバー(銀条) | 流れ方向の銀白色の筋 | 水分・ガスが巻き込まれた「傷跡」 |
| ウェルド | 樹脂がぶつかった直線の筋 | 流れが合流した「縫い目」 |
この3つは原因もアプローチもまったく別物です。
不良の正体を見極めてから対策を打つことが、最短解決への近道です。
2. フローマークの原因|スキン層の「乱れ」が正体
射出された樹脂は、金型の壁面に触れた瞬間から冷えて固まり始めます。
この薄い固化層をスキン層(金型壁面に接して最初に固まる層)と呼びます。
スキン層が均一に形成されれば、きれいな表面になります。
しかし流速が遅すぎたり、ゲート付近で流速が急変したりすると、スキン層は波を打つように不均一になります。
この「乱れ」が縞模様として表面に刻まれます。
現場のイメージ: 川岸の泥はすぐ固まって岸にへばりつきます。
その内側を柔らかい泥が流れ続ける。
固まり方が均一でないと、岸に「段差」ができるイメージです。
ゲート周辺にフローマークが集中するのは、流速の急変・流れの拡散・急激な冷えという3つの悪条件が重なるためです。
CAE(流動解析)でキャビティ内を見ると、ゲート付近ではフローフロント温度(樹脂先端の温度)が急落し、せん断速度(樹脂が金型壁面をこする速さ)が乱れています。
これがスキン層の不均一な形成につながっています。
3. 樹脂別フローマーク傾向|材料で原因と対策は変わる
| 樹脂 | 出やすい条件 | 対策の優先ポイント |
|---|---|---|
| PP | 金型温度が低い(25℃以下)・低速射出 | 金型温度を40℃以上に上げることが最優先 |
| ABS | 流速ムラに敏感。樹脂温度を上げすぎるとシルバーが併発 | 速度の区間制御と乾燥管理を両立させる |
| PC | 乾燥不足との誤認が多い。冷却差に敏感 | 乾燥確認→金型温度の均一性チェック |
| PA | 吸湿による水分と流速変動の複合で発生 | 乾燥管理が絶対条件 |
| POM | ゲート径が小さいと顕在化しやすい | ゲート径の見直しが最初の一手 |
ABSで特に注意: フローマーク対策のつもりで樹脂温度を上げ続けると、今度はシルバーが併発します。 ABSの場合は樹脂温度よりも速度の区間制御を優先してください。 → 射出成形シルバー対策の完全ガイドはこちら
4. フローマークの対策と改善方法|5つのアプローチ
対策の優先順位
| 優先順位 | アプローチ | 理由 |
|---|---|---|
| 🥇 1位 | 金型温度の実測値確認 | 気づかず下がっていることが多い |
| 🥈 2位 | ゲート通過区間の速度調整 | 効果が出やすく他の不良への影響が少ない |
| 🥉 3位 | 樹脂温度の調整 | 焼けリスクがあるため慎重に |
| 4位 | V-P切り替えタイミングの調整 | 微調整で効く場合がある |
| 5位 | 金型構造の見直し | 条件で限界が来たら検討 |
① 温度|まず実測値を確認する
金型温度の「設定値」と「実測値」は別物です。
季節の変わり目や夜間の室温低下で、設定値より5〜10℃低くなっていることは珍しくありません。
私がトラブル対応に呼ばれたとき、最初に持っていくのは温度計です。
操作パネルではありません。
- 樹脂温度↑: 流動性が上がりスキン層の形成が遅くなる。ただし焼け・分解に注意
- 金型温度↑: 急激な冷えが抑えられ、スキン層が均一に形成される。ただしヒケに注意
② 速度|ゲート区間だけをピンポイントで速くする
「高速射出が有効」とよく言われますが、全行程を速くするとシルバーやジェッティングが出ます。
大切なのは「どこを速くするか」です。
- 射出序盤(低速): スプルー内のエアを逃がすため。高速だとシルバーになります
- ゲート通過直後(高速): フローマーク対策の核心区間。スキン層を均一に形成するため素早く通過させます
- 充填終盤(減速): バリ・ウェルドを防ぐため速度を落とします
まず試すこと: ゲート通過直後の区間だけを 5〜10% 速くしてみてください。 改善すればその方向で調整を続け、悪化すれば前後の区間を見直します。
③ 圧力|V-P切り替えのタイミングを見直す
V-P切り替えが早すぎると、充填後期の流れが失速してフローマークの原因になります。
切り替え位置を「少し遅め」にすると改善することがあります。
変更は1〜2mm単位で少しずつ行ってください。
④ 金型構造|ゲート径とコールドスラッグウェルを確認
| 確認ポイント | 対策 |
|---|---|
| ゲート径が小さい | 拡大・形状変更を検討 |
| コールドスラッグウェルが小さい | 拡大または追加 |
| ゲート位置が薄肉に正面当たりしている | 位置変更・サブマリン化を検討 |
| 金型の冷却が偏っている | 冷却回路の見直し |
⑤ 最終手段|シボ・塗装への切り替え判断
「条件変更を10回以上試みて改善が10%未満」なら、それ以上の追求は時間と材料の無駄です。
- シボ加工: 金型表面に凹凸をつけ、フローマークを目立たなくします
- 塗装: 表面を覆うため、フローマークが完全に隠れます
この段階になったら、早めに設計・品質部門と連携することが重要です。
5. ホットランナー使用時の注意点
コールドランナーと異なり、ホットランナーではコールドスラグが発生しにくい反面、別の原因でフローマークが起きます。
- ホットノズル温度のズレ: 設定値と実測値のズレを必ず確認してください
- バルブゲートの開閉タイミング: 圧力の立ち上がりに合わせて開くよう調整することが基本です
- マニホールド温度差: 複数ゲートの場合、温度差が充填バランスを崩してフローマークになることがあります
- シールリングの劣化: 長期使用による劣化が流れを乱すことがあります。定期点検と交換が必要です
6. 実例ケーススタディ|「突然出た」フローマークを80%改善した話
状況: ABS製部品。量産開始から3週間後にゲート周辺のフローマークが全数発生。
原因の特定
- 材料ロットが変わっており、MFR(メルトフローレート)が若干低下していた
- 金型温度を実測すると、設定値40℃に対して実測値30℃。季節の変わり目(冬)で5℃低下していた
対策と結果
| 対策内容 | 変更前 | 変更後 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 金型温度(実測値) | 30℃ | 40℃(設定値通りに復元) | フローマーク面積が約60%減少 |
| ゲート通過区間の速度 | 30mm/s | 32mm/s(+約7%) | 残存フローマークがほぼ消滅 |
条件は何も変えていなかった。変わっていたのは環境だけでした。
結果:冷却水を水から温調40°Cに変更することでフローマークは改善されました。
「突然出た」と感じたら、まず実測値を疑ってください。
7. やってはいけない3大悪手
❌ 悪手① 全段を一気に高速化する 速くする方向は正しいですが、全段一律ではシルバーやウェルドが悪化します。速くするのはゲート通過区間だけです。
❌ 悪手② 樹脂温度だけを上げ続ける ABSやPCは熱劣化が早く、上げすぎると焼け・ガスが発生します。材料メーカーの推奨範囲内で調整してください。
❌ 悪手③ 乾燥不足を見落とす シルバーとフローマークが同時に出ている場合は、まず乾燥管理を確認してください。乾燥不足のまま条件を変えても改善しません。 → シルバーと乾燥管理の関係はこちら
8. 似た不良との見分け方
| 不良名 | どこに出るか | 直感的なたとえ |
|---|---|---|
| フローマーク | ゲート周辺 | 池に石を投げたときの波紋 |
| ジェッティング | ゲートの正面 | ヘビが這い回った跡 |
| ウェルド | 合流点・穴の周辺 | 縫い合わせた糸の跡 |
| シルバー(銀条) | 流れ方向全般 | ガラスに引っかいた傷 |
フローマークかシルバーか迷ったら、光に当ててみてください。
銀白色に光るのがシルバー、光らず縞模様があるのがフローマークです。
9. まとめ|現場チェックリスト【保存版】
① 発生状況の確認
- ゲート周辺のみか、離れた場所にも出ているか
- 特定ゲートだけか、全数か
- 今日突然か、前からあったか
② 環境変化の確認
- 金型温度の実測値を確認したか
- 材料ロットが変わっていないか
- 室温・季節の変化はないか
③ 条件調整の手順
- ゲート通過区間の速度を 5〜10% 上げてみたか
- V-P切り替えを 1〜2mm単位で調整したか
- 10回以上試して改善が10%未満なら設計相談へ
FAQ|よくある3つの質問
Q. フローマークは完全にゼロにできますか?
条件と金型が最適化されていれば、実用上ゼロに近いレベルまで改善できます。
ただし製品形状やゲート位置によっては完全消去が難しいケースもあります。その場合はシボ加工や塗装への変更が現実的です。
Q. シルバーとフローマークが同時に出ています。どちらを先に対策すべきですか?
乾燥管理を先に確認してください。
シルバーの原因が乾燥不足であれば、それを解消してからフローマーク対策を行うことで問題が整理されます。2つを同時に条件で追いかけると、原因の切り分けができなくなります。
Q. 材料を変えることで改善することはありますか?
あります。MFI(メルトフローインデックス)が高いグレードに変更することで、同じ条件でもフローマークが出にくくなることがあります。
ただし強度・耐熱性が変わる場合があるため、設計部門と確認した上で判断してください。
フローマークは「樹脂の足跡」です。
足跡を消したければ、樹脂がどこでつまずいたかを理解することが先決です。
根拠のない条件変更は、トラブルの上塗りにしかなりません。
まず温度計を持って現場に向かう。それが最速の解決への第一歩です。
このページはブックマークして、現場でのトラブル対応にいつでも参照してください。
明日からの立ち上げが、少しでも楽になることを願っています。
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