【1級技能士が解説】射出成形 ヒケの原因と対策|保圧の入れすぎが新たな不良を生む理由

射出成形のヒケと保圧の関係を解説する警告ポスター風アイキャッチ画像 不良対策

📋 この記事でわかること

  • 射出成形のヒケが肉厚部分に集中する理由とメカニズム
  • ヒケが出たときの初動——「肉厚→保圧→冷却→ゲート」の優先順位
  • 保圧を上げすぎるとPLに糸バリが出る理由と対処法
  • 一速一圧が理想な理由とピン・コマが流れを変える話
  • 明日から使えるヒケ対策チェックリスト

本記事の数値・手順はあくまで参考値です。実際の作業では金型メーカー指定値・社内規定を必ず最優先にしてください。内容の適用による損害について、当サイトは責任を負いかねます。

成形現場で働く皆さん、今日もお疲れ様です。

1級技能士のゆーじです。

こんな経験、ありませんか。

製品の中央に出たヒケを消そうと保圧を少しずつ上げていく。

ヒケは薄くなっていく。

「あと一押しだ」と思ってさらに上げた瞬間——今度は丸い蓋の縁のPL全周に、細い糸バリが出た。

ヒケを消したら、バリが生まれた。

結論から言います。 ヒケ対策の本質は「保圧を上げること」ではありません。「ヒケが消えるギリギリの保圧を見つけること」です。入れすぎは新たな不良の入り口になります。

射出成形のヒケとは何か|なぜ肉厚部分に集中するのか

ヒケは、成形品の表面が凹んだように見える外観不良です。

意匠面に出ると致命的で、後工程の研磨・塗装でも完全にカバーしきれないケースがあります。

原因はシンプルです。樹脂は冷えると収縮する

この収縮を補う樹脂が十分に供給されなかった箇所が、表面を内側に引っ張り凹んでいきます。

なぜ肉厚部分がヒケやすいのか

成形品の表面は金型と接触しているため先に冷えて固まります。

しかし肉厚部分の内側は冷えるのが遅い

表面が固まった後も内部では収縮が続くため、固まった表面が内側へ引っ張られて凹みます。

リブ・ボス・コマ跡・ピン周辺——これらは必ず局所的に肉厚が増す箇所です。

ヒケが出たとき、まず疑うべき場所はここです。

ABSとPCの挙動

ABS・PCともにヒケの出方に大きな差はありませんが、ABSは成形温度が低いぶん保圧が効きやすいという現場感覚があります。

理由は固化速度の違いです。

ABSは溶融温度が低く、保圧をかけている間に表層が適度に固まり始めるため、圧力が製品形状に転写されやすい。

一方PCは樹脂温度が高く粘度も高いため、保圧をかけてもゲートから遠い箇所まで圧力が伝わりにくいという特性があります。

材料ごとの「保圧の届きやすさ」を意識しておくと、対策の引き出しが増えます。

ヒケが出たときの初動|疑う順番は「肉厚→保圧→冷却→ゲート」

ヒケが出たとき、すぐに保圧を上げるのは正しい初動ではありません。

まずなぜヒケが出ているのかを特定することが先決です。

  1. 肉厚を確認する
    ヒケの発生箇所の裏側・周辺の肉厚を確認します。
    リブやボスの付け根、コマ・ピンが干渉している箇所と一致していないか。
    肉厚の問題であれば、保圧でどれだけ頑張っても根本解決にはなりません。
    設計側へのフィードバックが必要になります。
  2. 保圧を調整する
    肉厚に問題がなければ、次は保圧の設定値と保圧時間を確認します。
    ただし上げ方には上限がある——これが次のセクションの核心です。
  3. 冷却時間を確認する
    保圧を適切にかけていても、冷却が不十分だとゲートが固まる前に型が開いて収縮が進みます。
    サイクルタイムへの影響が大きいため最後の調整手段として使います。
  4. ゲート位置を確認する
    ゲートから遠い箇所にヒケが集中している場合、圧力がそこまで届いていない可能性があります。ゲート位置の変更は金型改造が必要なため、他の手段を使い切ってから判断します。

バリとヒケが同時に出ている場合は、充填圧力の問題が複合しています。→ 【射出成形】未充填なのにバリが出る原因は?ショートと同時発生する理由と対策完全解説

保圧の正しい上げ方|入れすぎが糸バリを生む

保圧を上げていくと何が起きるか。

ヒケが出ている製品で保圧を段階的に上げると、こういう経過をたどります。

保圧 ヒケの状態 PLの状態
低すぎる ヒケ大 バリなし
適切 ヒケ消える バリなし
高すぎる ヒケ消える 糸バリ発生
さらに高い ヒケ消える バリ拡大・型傷リスク

ヒケが消えた状態で保圧を上げ続けると、樹脂がPLから溢れ始めます。

丸い蓋状の製品であれば、蓋の縁のPL全周に細い糸状のバリが出ます。これが糸バリです。

糸バリが出たら「保圧をかけすぎている」サインです。さらに上げるのは絶対にやめてください。型傷・PLへのダメージにつながります。

「ヒケが消えるギリギリ」を探す

正解の保圧は「ヒケが消える最低ライン」です。ヒケが消えた時点で保圧の上昇を止め、そこから冷却時間・型温との組み合わせで微調整する。これが保圧調整の正しいアプローチです。

保圧を上げてもヒケが消えない場合は、保圧の問題ではなく肉厚・ゲート・冷却の問題です。保圧だけで戦わない判断も重要です。

流し方がヒケを左右する|一速一圧が理想な理由

ヒケ対策を語るとき、充填の「流し方」は見落とされがちなポイントです。

理想は一速一圧——一定の速度・一定の圧力で樹脂を流し切ること。

均一に充填できれば、圧力のムラが生まれず、局所的な充填不足(ヒケの原因)も起きにくくなります。

なぜ現実は多段になるのか

製品の中にピンやコマがあると、樹脂の流れは必ず変速します。

障害物を迂回する流れは速度が乱れ、合流点でヒケの原因になります。

また製品の肉厚が途中で変わる箇所でも流速が変わります。

こうした「変速が避けられない箇所」を補正するために多段射出を使いますが、あくまで「一速一圧に近づけるための補正」という意識で設定することが重要です。

速度を細かく刻みすぎると、かえって圧力のムラを増やすことになります。

ピン・コマの位置とヒケの発生箇所が一致しているときは、流れの変速による局所的な充填不足を疑ってください。保圧より先に充填速度の見直しが有効なケースがあります。

型温が安定していないと充填のムラも増えます。→ 【1級技能士が警告】射出成形 ガス焼けの原因は型温|熱膨張で0.02mmベントが消える理由と対策

ヒケ対策チェックリスト

  • ヒケの発生箇所の肉厚を確認した|リブ・ボス・コマ・ピン周辺と一致していないか
  • 保圧設定を段階的に確認した|ヒケが消えるギリギリで止めているか
  • PLに糸バリが出ていないか確認した|出ていたら保圧をかけすぎのサイン
  • 冷却時間との組み合わせを確認した|保圧と冷却はセットで調整する
  • 充填速度・流し方を確認した|ピン・コマ周辺の変速が原因になっていないか
  • ゲート位置と発生箇所の距離を確認した|ゲートから遠い場合は圧力の届きにくさを疑う
  • 材料の乾燥状態を確認した|乾燥不足はシルバーと合わせてヒケの一因になる

    材料乾燥の不足はシルバーとヒケの複合原因になります。→ 射出成形シルバー対策|なぜ消えない?原因チェックリストと完封術

    よくある疑問(FAQ)

    Q. ヒケと保圧の関係を一言で言うと?

    保圧はヒケの薬だが、飲みすぎると副作用が出る」です。

    ヒケを消す最低限の保圧を見つけることが目的であり、上げ続けることが目的ではありません。

    PLへの糸バリが「飲みすぎ」のサインです。

    Q. ABSとPCでヒケの出方は変わりますか?

    大きな差はありませんが、ABSは固化速度が速いぶん保圧が効きやすい傾向があります。

    PCは粘度が高くゲートから遠い箇所に圧力が届きにくいため、ゲート位置や保圧時間の設計がより重要になります。

    Q. ゲート位置を変えずにヒケを改善できますか?

    保圧・冷却時間・充填速度の組み合わせで改善できるケースが多いです。

    ただしゲートから極端に遠い箇所のヒケは条件調整での改善に限界があります。

    その場合は設計側へのフィードバックと金型改造の検討が必要です。

    まとめ:保圧の「上げどき」と「引きどき」を知ることが成形技術者の条件

    • ヒケは肉厚部の冷却収縮が原因。まず発生箇所の肉厚を疑う。
    • 保圧は「ヒケが消えるギリギリ」が正解。上げすぎるとPLに糸バリが出る。
    • 糸バリが出たら保圧を下げて冷却時間で補う方向に切り替える。
    • 理想は一速一圧。ピン・コマ・肉厚変化への対応として多段を使う。
    • 疑う順番は「肉厚→保圧→冷却→ゲート」

    ヒケを消そうとしてバリを生む——この経験をした人は多い。

    でも「なぜそうなったのか」を言語化できる人は少ない。

    保圧の上げどきと引きどきを知っていることが、条件屋と本物の成形技術者の分岐点です。

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