📋 この記事でわかること
- ガス焼け・ショートの真犯人「熱膨張によるベント消失」のメカニズム
- 型温の危険域ボーダーライン(設定値+10〜20度)の見極め方
- 綿手による現場診断の具体的な感触と汚れの読み方
- ベント清掃の正しい手順(洗浄剤→綿手の使い方)
- 現場でやってはいけない「3大悪手」とその理由
本記事の数値・手順はあくまで参考値です。実際の作業では金型メーカー指定値・社内規定を必ず最優先にしてください。内容の適用による損害について、当サイトは責任を負いかねます。
成形現場で働く皆さん、今日もお疲れ様です。1級技能士のゆーじです。
ガス焼けが出るたびに射出圧を上げてしまう若手、対策を打っても再発が止まらない中堅オペレーター——この記事はそんな方々に捧げます。
結論から言います。
ガス焼けの原因は、ほとんどの場合「条件の数値」ではありません。
「型温上昇によるベントの物理的消失」です。
モニターをいじる前に、金型の体温を疑ってください。
射出成形 ガス焼けの本当の原因|0.02mmを殺す「熱膨張」の正体
金型は精密な鉄の塊ですが、同時に「生き物」です。
室温20度の朝一番と、量産中に金型表面温度が80度になった状態では、金型そのものの大きさが物理的に違います。
長さ1,000mmの鋼材が10度温度上昇すれば、計算上は約0.1mm膨張します。
金型全体が熱膨張することで合わせ面同士が押し付けられ、わずか0.02mmのベント開口量が失われます。
ベント消失のプロセス
| 状態 | ベント隙間 | 結果 |
|---|---|---|
| 冷間時(始業時) | 約0.03mm | ガス排出OK → 良品 |
| 温調後(安定時) | 約0.01mm | 排気不足 → 🟡 黄色信号 |
| 過熱後(量産中) | 約0.00mm | ガス滞留 → 🔴 焼損・ショート発生 |
これが「条件は何も変えていないのに、1000ショット後にガス焼けが突然出る」現象の正体です。
変わったのは数値ではなく、金型の体温だけでした。
型温の危険域ボーダーライン|放射温度計で「今の体温」を測れ
型温管理で最も重要なのは、モニターの設定値ではなく金型の実測温度です。
⚠️ 現場で使える判断基準
放射温度計で測った実測値が、温調設定値+10〜20度を超えたら危険域。
設定60度なら、実測70〜80度がボーダーライン。
これを超えた瞬間、ベントは機能を失い始めます。
特に型温が暴れやすいタイミング
- サイクルタイムが乱れて金型が止まっていた後の再起動直後
- 昼休み明けの最初の数十ショット
- 季節の変わり目で工場内温度が上がる時期
これらの場面は型温が想定外に変動しやすいタイミングです。
実測なしで再開するのが最もリスクの高い判断です。
現場でやってはいけない「ガス焼け対策」3大悪手
ガス焼けが出たとき、反射的にやってしまいがちな操作があります。
これをやると、状況は悪化します。
以下の3つは、ガス焼けを悪化させる悪手です。絶対にやらないこと。
- ❌ 射出圧を上げる ── ガスをさらに圧縮し、発火(焼損)を加速させます
- ❌ 射出速度を上げる ── 排気が追いつかず、シルバーの原因になります
- ❌ 型温設定をさらに上げる ── 金型の膨張に拍車をかけ、ベントを完全に封鎖します
正しい初動は「条件をいじる前に、金型の実測温度を測る」です。
射出速度を上げたことでシルバーが発生している場合は、原因の切り分けが必要です。 → 射出成形シルバー対策|原因チェックリストと完封術
ガス焼けが出たときの初動チェックリスト
条件を変えるのは、このチェックを終えてから。それが1級技能士の初動です。
- 金型の実測温度|設定値+10〜20度以内か
- サイクルタイムのバラつき|停止時間が長くなかったか
- 綿手でPLをなぞる|ザラつき・引っかかりがないか
- 材料の乾燥状態|乾燥時間・温度は規定通りか
- ベントの目詰まり|炭状の堆積物がないか
綿手診断|1級技能士が使う「指先という精密センサー」
私が金型点検で手にするのは新品の軍手ではありません。
何度も洗濯され、繊維が馴染んだ使い古しの綿手です。
感触で読む:ガス詰まりの発見
PLをゆっくりなぞったとき、正常な面はスムーズに滑ります。
しかしガスが詰まっている箇所は違います。
- ザラつく・引っかかる感触 → 堆積物がベントを塞ぎ始めているサイン
- 粘り・べたつく感触 → 樹脂やガス成分が焼き付いて固まりかけているサイン
この「引っかかり」を感じた場所が、清掃の優先ポイントです。
汚れ方で読む:問題の種類を特定する
綿手の汚れ方は、金型が抱えている問題を教えてくれます。
| 汚れの種類 | 読み取れること |
|---|---|
| 特定の角だけ黒く汚れる | そこにガスが集中している |
| 全体が薄く均一に汚れる | 型締め過多で全体が窒息 |
| 油っぽい汚れ | グリス・油漏れ系の別問題 |
| 炭状の黒い粉 | ガス焼けが進行中 |
綿手に油っぽい汚れが出た場合は、ガス焼けではなくグリス・さび止めの問題です。
ベント清掃の正しい手順|洗浄剤と綿手の使い方
金型洗浄剤は、金型に直接吹き付けてはいけません。
油分と溶剤が混ざって広範囲に広がり、かえって汚染範囲を拡大させます。
✅ 正しい清掃の基本:綿手に洗浄剤を吹き付けてから、金型を拭く。
ベント清掃の手順(4ステップ)
- 綿手に洗浄剤を吹き付ける 綿手全体に均一に吹き付け、繊維が洗浄剤を含んだ状態にします。びしょびしょにしない。
- PLとベント周辺をなぞる 引っかかりを感じた箇所を中心に、ゆっくりなぞります。黒い堆積物が綿手に移れば清掃できています。
- 乾いた綿手で仕上げ拭き 洗浄剤の残渣を完全に拭き取ります。溶剤が残ったまま成形すると蒸発ガスが別の不良を引き起こします。
- 再度、綿手でなぞって確認 引っかかりが消えていれば清掃完了。まだ残る場合は手順①から繰り返す。
使い古した綿手が最適な理由: 繊維が馴染んでいて、ベントの溝や細かい形状にフィットしやすいからです。新品の軍手は繊維が粗く、感触が鈍い。
型替え作業全体の工具管理については、こちらも参考にしてください。 → 射出成形 型替え工具の基本|トルクレンチ・六角・モンキーの正しい使い方
よくある疑問(FAQ)
Q. ガス焼けは型温を下げれば直りますか?
半分正解で、半分不正解です。
型温を下げれば膨張は収まりますが、下げすぎると流動性が落ちてショートの原因になります。
温度操作よりも「熱膨張してもガスが抜けるベントのメンテナンス状態を維持する」ことが本質的な解決策です。
Q. ガス焼けと材料劣化によるシルバーの見分け方は?
発生場所と形状で判断します。
| 不良の種類 | 発生場所・見た目の特徴 |
|---|---|
| ガス焼け | 製品の末端・薄肉部・行き止まり部分に集中。リブの先端や製品角部に炭状の黒ずみ |
| 材料劣化のシルバー | ゲートから5〜20mm以内の近傍、または薄肉部の流動方向に沿って筋状に発生 |
発生箇所がゲート近傍か末端かを先に確認してから原因を絞ってください。
両方同時に出ている場合は複合原因を疑います。
Q. 放射温度計はどこを測ればいいですか?
ガス焼けが発生している製品部位に対応する、コア面・キャビ面の直近を測ってください。
型温計のセンサーは金型内部の温度を測っているため、表面温度とは差が出ることがあります。
放射温度計による実測値を優先してください。
まとめ|樹脂を流す前に、空気を流せ
射出成形の本質は「金型の中にある空気を、いかにストレスなく外へ逃がすか」にあります。
📌 保存版・対策の鉄則
- ガス焼けが出たら、まず実測温度を確認する。設定値+10〜20度が危険域
- 射出圧・速度・型温設定をいじるのは、チェックリストを終えてから
- 綿手でPLをなぞり、引っかかりと汚れ方から原因を読む
- 清掃は綿手に洗浄剤を吹いてから拭くが基本
数値に頼らず、自分の指先の感覚と金型の体温を信じてください。
そのわずかな習慣が、あなたを条件屋から本物の成形技術者へと変えます。
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